名古屋高等裁判所 昭和26年(ネ)267号 判決
控訴代理人は、原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とするとの判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の事実上の陳述は、控訴代理人において、「商法の一部を改正する法律施行法第十一条によれば、新法施行前になされた記名株式の移転については、新法施行後もなお旧法が適用されるわけであるが、同条但書によれば、新法第二百五条第二項及び第三項の規定の適用は妨げられないのであつて、本件の如き署名及び記名なき捺印のみの白紙委任状付記名株式の譲渡は世間一般の慣習として当然有効視されているから、新法第二百五条に謂う譲渡証書のうちに包含せしむべきものであり、本件の如き白紙委任状付記名株式の譲渡は同条にいわゆる譲渡証書による株式の譲渡に該るのであるから、その取得者たる控訴人は同条第三項によつてその資格を保護せられるべきものである。又訴外岡島保吉は単純な偽造委任状の作成者ではなく、被控訴人は右岡島に対して本件株式の名義書換方を依頼しておいたのに、たまたま右岡島が越権して偽造の白紙委任状でその株式を処分したわけであつて、被控訴人は右岡島に名義書換方を依頼して株券を手交したとき一応右岡島を信頼して本件株券の大体の処分権を任す趣旨の法律行為を委任しているものと考え得られるわけであるから、本件の場合を目していわゆる白紙委任状が不正に作成された場合の株券取得者の問題と同一視することはできない。なお又控訴人は本件記名株式について質権の設定を受けて株券の交付を受けたものであるから、その交付を受けた事実を以て第三者対抗要件を具備するに至つたものである。」と述べたほかは、いずれも原判決の事実摘示と同一であるから、これをここに引用する。
<立証省略>
三、理 由
原審証人岡島保吉の証言並びに当事者間成立に争のない乙第一号証及び乙第二、三、四号証の各一を綜合すると、控訴人は昭和二十五年十月十一日訴外岡島保吉に対して金十一万九千円を貸与するに際りその債権の担保として、右訴外者から、被控訴人名義の本件株券合計千百株及びそのほか被控訴人以外の者の所有名義の株券の交付(質権の設定)を受けたこと、右株券はいずれも被控訴人が右訴外者に対してその株式名義を被控訴人名義に書換える手続をとることを依頼して寄託しておつたもので、右訴外者は、本件株券についてはそれぞれ被控訴人名義に名義書換の手続を了したが、被控訴人に返還せず、これを自己の控訴人に対する右債務の担保として控訴人に差入れ、現に控訴人において、これが占有を継続しているものであることが明らかである。控訴人は右岡島保吉は被控訴人より本件株券の処分を委任せられていたように主張するけれどもこれを認めるに足る証拠がないから右主張は理由がない。しかして、右訴外者が右差入に際り、その株券に添付した株式名義書換用の各委任状(乙第二、三、四号証の各二はその一部)は、同訴外者において擅に偽造したものであることは、前記証人岡島保吉の証言に徴して明らかなところである。よつて、控訴人はその主張するように、右株券につき質権を取得したものであるかどうかを考えるに、右乙第二、三、四号証の各二及び右証人岡島保吉の証言によると、前示各委任状は、いずれも印刷文字だけ記載されている、いわゆる株式名義書換用の白紙委任状であつて、これには委任者の署名又は記名と認める記載はなく唯通常委任者の署名捺印すべき箇所に<三浦>と刻せる印章が押捺されていることが認められる。しかして、右株券等の交付は、昭和二十六年法律第二百十号商法の一部を改正する法律施行法施行の同年七月一日以前になされたものであることは明らかであるから、同法第十一条本文によつて同法施行後においてもなお旧法の規定を適用すべきものであるから、その株式移転の効果について旧商法を適用するに、記名株券が株式名義書換の白紙委任状又は処分承諾書附で他人に交付された場合にはその添附書類が真正に成立したもので且つ任意に交付されたものである限り、善意無過失でその株券及び添附書類を取得した者はその株式上の権利を取得するものであるという商慣習法の存在したことは当裁判所に顕著な事実である。従つて右商慣習法の適用あるがためには、右添附書類が真正に成立したものであつて且つ任意に交付されたものであることを必要とし、しからざる場合には、たとえその取得者が善意無過失であつても、当該株券の株式上の権利を取得するものでないことは当然であるから、上叙の如く右各委任状が偽造に係るものであること及びこれが株式所有者において任意に交付したものでないことが明らかな本件においては、たとえ控訴人において、善意無過失でその株券の交付を受けたとしても、何等その株式上の権利を取得し得ないものであることは明らかである。控訴人は善意無過失で本件株券につき質権の設定を受けたものであるから、旧商法第二百二十九条第一項の規定の類推適用による小切手法第二十一条の準用により善意の取得者として保護されるべきものであると主張するから考えるに、旧商法第二百二十九条は記名株式が裏書により譲渡された場合に適用される規定であつて、商慣習法上白紙委任状又は処分承諾書の添附によつて株券の移転する場合に適用されるべきものでないことはいうまでもないから、本件株式の移転については右各規定の適用又は準用はないものである。従つて控訴人の主張は採用に値しない。しかして、控訴人爾余の主張は右各認定に照らしていずれもその理由ないものであることは自ら明らかである。つぎに、控訴人は右商法の一部を改正する法律施行法第十一条但書によつて、本件株式の移転については新商法第二百五条第二項及び第三項の適用を妨げないのであり、控訴人が交付を受けた右各委任状は、同法条にいわゆる譲渡を証する書面に該るから、これとともに本件株券の交付を受けた控訴人はその資格を保護せられるべきものであると主張するから考えるに、右商法の一部を改正する法律施行法第十一条の規定によると、新商法施行前にされた記名株式の移転については、旧商法のほか新商法第二百五条第二項及び第三項の規定も亦適用されるのであるが、同条第三項の適用あるがためには、記名株券の占有者が同条第一項に規定する譲渡を証する書面によつてその権利を証明することを要するものであるから、控訴人の所持する右各委任状が右にいわゆる譲渡を証する書面に該当するかどうかを考察するに、同条第一項は記名株式の移転につき裏書に依り株券を交付する譲渡のほかに、譲渡を証する書面を株券とともに交付する譲渡方法を認めたものであつてその譲渡は、当該株券に株主として表示されてある者の署名ある譲渡を証する書面を株券とともに交付することを要するものとするいわゆる要式行為としたものであることはその文理解釈上明らかであるから、その方式に違反した譲渡行為は、これにいわゆる資格授与的効力を有せしめないものと解するを相当とする。しかるに、控訴人が株券とともに交付を受けた本件各委任状には、株式の譲渡を証する旨の文言の記載はなく、唯株式名義の書換そのほかこれに関する一切の権限を委任する旨の記載があるだけであり、しかも、前叙のように、委任者の署名又は記名なく、単に<三浦>と刻する印章が押捺されているに過ぎないのであるから、これを以て、右にいわゆる譲渡を証する書面としての方式を具備するものとは到底認めることはできない。従つて控訴人は同条第三項に謂う、権利を証明した者と謂うことはできない。又新商法第二百二十九条の規定は前顕法律施行法第二条第一項、第十一条本文及び但書を対照することにより新商法施行前にされた記名株式の移転についてはその適用のないものであることが明らかであるから、控訴人は本件の場合において小切手法第二十一条の規定の準用を受け得べき者ではない。さすれば控訴人は商法の新旧両法のいずれによるも、本件株式につき何等株式上の権利を取得した者ではないから、これに対してその所有権に基き株券の引渡を求める被控訴人の請求は正当であり、これを認容した原判決は相当であつて、控訴人の控訴は理由がないから、民事訴訟法第三百八十四条によつてこれを棄却すべきものとし、控訴費用の負担につき同法第九十五条第八十九条を適用し、主文のとおり判決した。
(裁判官 中島奨 長尾信 白木伸)